……もう限界だ。耐えられぬ。
2026-03-07
執務室に1人でいた吾輩は、ガラス窓の前に立っていた。
窓の外は豪雨で、時折雷も鳴っている。
……雨の日は嫌いだ。
窓を姿見代わりに髪の毛を整えながら、吾輩は苛立っていた。
灰色の髪は、生まれつき捻じれている。
部下たちは「獅子《しし》のように雄々しい」と褒めてくれるが、いちいち整えるのが面倒なので、正直なところ全て剃ってしまいたい。
リリスが泣いて止めるので、思い留まっているが……。
漆黒の角に絡みつく髪を解きながら、ため息をつく。
そうしていると、扉を叩く音が聞こえた。
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15 minutes
よく来たな勇者よ。吾輩は――
2026-03-07
「るし・ふぁー」
不安そうな面持ちで、邪神様は吾輩の名を呼んだ。
吾輩と邪神様がいるのは、謁見の間――の、舞台袖だ。
謁見に来た者たちがひざまずく中、ここから吾輩が颯爽と現れ、数メル先に見える玉座に座る、という仕組みになっている。
普段はここに蜘蛛女《アラクネ》が控えていて、吾輩の身仕度を最終確認するのだが、現在は吾輩たち2人の他には誰もいない。
薄暗い中、吾輩は腰を落として邪神様の瞳をのぞき込んだ。
4193 words
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21 minutes
ゲオルよ。お前は、いい部下だ。
2026-03-07
吾輩は1ヶ月もの間、寝込んでいたらしい。
吾輩とゲオル、リリスの3人で廊下を歩いていると、大そう心配してくれていた部下たちが、目に涙を浮かべながら話しかけてくる。
1人に対応していると、騒ぎを聞きつけた別の部下たちまで集まってくる。気持ちはもちろん嬉しいが……これではキリがない。
そういうわけで、ゲオルに幻惑魔術をかけてもらった。
これで、幹部以下の者には、吾輩たちの姿を認識することができない。
部下たちにぶつからないよう注意しながら廊下を歩いていくと、食堂にたどり着いた。
邪神様は……。
3832 words
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19 minutes
吾輩が、魔術でこれを生成したのか?
2026-03-07
召喚の間で待っていると、軋む音を立てながら扉が開いた。
「るし・ふぁー?」
不安そうな声で言って、邪神は小走りでこちらへとやってきた。
吾輩の服の袖を指先で摘まみ、キョロキョロと周りへ目を向けている。
「……1人で来られましたか?」
「うん。1人で来てって、ゲオルに言われたから。お城の奥の方にあるから、薄暗くて少し怖かったの」
そう。召喚の間は魔王城の最奥にある。加えて、ゲオルが幻惑魔術をかけているから、ここで何が起ころうとも、外部からは悟られない。
「邪神様。邪神様をここにお呼びしたのは、お頼みしたいことがあったからです」
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16 minutes
貴様!! 吾輩を愚弄するのか!?
2026-03-07
吾輩は魔王である。
名前は――
「るし・ふぁー、がいいと思うの!」
元気いっぱいに宣ったのは、10歳にも満たない姿の少女だった。
少女が鋭い爪先を動かすと、赤黒色の禍々しい文字が宙に刻まれる。
『るし・ふぁー』
丸っこい文字だった。
その文字を仰ぎ見ながら、吾輩はためらいがちに口を開いた。
「邪神様……あの、これはいったい?」
3092 words
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15 minutes